糖尿病

EMPA-REG OUTCOME試験 エンパグリフロジンは腎症の進行を抑制する

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes
N Engl J Med 2016; 375:323-334

《要約》
背景
糖尿病は、心血管イベントと腎イベントのリスクを増加させる。EMPA-REG OUTCOME試験では、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジンが心血管イベントリスクが高い2型糖尿病の心血管イベントを減少させた。我々は、事前に明示したエンパグリフロジンの長期的な腎臓への影響を評価した。

方法
eGFR≧30ml/min/1.73m2の2型糖尿病患者を、エンパグリフロジン群(10mgと25mg)とプラセボ群に無作為に割り付けた。事前に明示した腎アウトカムは、腎症の進行(顕性アルブミン尿、血清Cr値の倍増、腎代替療法の導入、腎疾患による死亡)とアルブミン尿の発生である。

結果
腎症の発生と増悪は、エンパグリフロジン群で525/4124例(12.7%)、プラセボ群で388/2061例(18.8%)だった(HR:0.61、95%CI:0.53−0.70)。血清Crの倍増は、エンパグリフロジン群で70/4645例(1.5%)、プラセボ群で60/2323例(2.6%)で、44%の有意な相対リスク低下を認めた。腎代替療法の導入は、エンパグリフロジン群で13/4687例(0.3%)、プラセボ群で14/2333例(0.6%)で55%の相対リスク低下を認めた。アルブミン尿の発生には有意な差はなかった。腎機能低下例でのエンパグリフロジンの安全性プロファイルは、試験全体と似通っていた。

結論
心血管リスクの高い2型糖尿病患者では、標準療法+エンパグリフロジンは、腎症の進行と臨床的に重要な腎イベントの低下と関連がある。

◇この論文のPICOはなにか
P:心血管疾患を有する2型糖尿病
I:エンパグリフロジン10mg/25mgの内服(エンパグリフロジン群)
C:プラセボの内服(プラセボ群)
O:腎症の進行(顕性アルブミン尿、血清Cr値の倍増、腎代替療法の導入、腎疾患による死亡)とアルブミン尿の発生

◇baselineは同等か
同等。ACE阻害薬/ARB、利尿薬も差はない。

試験開始後、プラセボ群で利尿薬を開始した例が多い(37%vs27%)。これは腎障害進行の原因とも結果とも考えられる。

◇結果
mITT解析で結果は以下の通り。

◇感想
SGLT2阻害薬により尿糖の増加し尿浸透圧が上昇することと、近位尿細管でのNa再吸収の抑制による遠位尿細管(緻密班)でのNa濃度が上昇することで、緻密班を介しTGFが働き、糸球体内圧が低下し、糸球体過剰濾過が改善される。

また、SGLT2阻害薬により血中ケトン体濃度は上昇するが、ケトン体は1分子あたりのATP産生量はグルコースよりも大きいため、腎へのエネルギー供給が増加するために保護的に作用する。

遠位尿細管のCl濃度が低下することで緻密班を開始レニン分泌が促される。SGLT2阻害薬による遠位尿細管のCl濃度上昇は、レニン分泌に対し抑制的に働く。

SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)の腎保護作用については、さまざまな仮説がある。心不全イベントの減少、腎アウトカムの改善など有効性を示しているが、安全性についてはRCTでは判断できないし(プラセボと差はないといっているがパワー不足)、長期的な安全性についてのデータが待たれる。