虚血性心疾患

DANAMI 3-DEFER試験 Primary PCIでのステント留置を遅らせる

Deferred versus conventional stent implantation in patients with ST-segment elevation myocardial infarction (DANAMI 3-DEFER): an open-label, randomised controlled trial.
Lancet. 2016 May 28;387(10034):2199-206.

《要約》
背景
ステントを留置し責任病変のprimary PCIに成功しても、いくつかの症例では血栓塞栓を起こし、生命予後が悪化する。STEMI患者において、defered stent implantation(ステント留置の延期)と標準的PCIの臨床的アウトカムを評価した。

方法
デンマークの4施設で、オープンラベル無作為化対照試験を行った。発症12時間以内、1mm以上のST上昇もしくは新規の左脚ブロックを組み入れた。患者は標準的なprimary PCIを行う群(標準的PCI群)と、責任血管の血流が安定していればステント留置を48時間後に延期する群(ステント留置延期群)に割り付けた。割り付けは、electronic web-based systemを用いてブロック無作為化により行った。主要評価項目は、全死亡、心不全による入院、心筋梗塞の再発、計画されていない責任血管の再血行再建の複合エンドポイントである。患者、治療介入者は盲検化されていない。ITT解析を行った。

結果
2011年3月1日から2014年2月28日までに、1215例の患者を標準的PCI群(612例)とステント留置延期群(603例)に無作為に割り付けた。フォローアップ起案の中央値は42ヶ月(四分位範囲33−49)である。主要評価項目は、標準的PCI群で109例(18%)、ステント留置延期群で105例(17%)であった(HR:0.99、95%CI:0.76−1.29)。手技に関連した心筋梗塞、輸血や手術を必要とする出血、造影剤腎症、脳梗塞は、標準的PCI群で28例(5%)、ステント留置延期群で27例(4%)であり、有意差はなかった。

結論
STEMI患者において、ルーチンにステント留置を延期することは、死亡、心不全、心筋梗塞、再血行再建を減らさなかった。現在進行中の無作為化試験が、STEMIへのステント留置を延期するというコンセプトに光をあてるかもしれない。

◇この論文のPICOはなにか
P:発症12時間以内のSTEMI、もしくは新規の左脚ブロック
I:ステント留置を48時間後に延期する(ステント留置延期群)
C:標準的なprimary PCI(標準的PCI群)
O:全死亡、心不全による入院、心筋梗塞の再発、計画されていない責任血管の再血行再建

inclusion criteria:18歳以上、発症12時間以内、連続した2つの誘導で0.1mV以上のST上昇、造影剤アレルギー、抗凝固薬や抗血栓薬に対するアレルギー、意識障害、心原性ショック、ステント血栓症、緊急CABGの適応

exclusion criteria:本文には記載なし

◇baselineは同等か
同等
characteristics1
characteristics2

◇結果
地域:デンマーク
登録期間:2011年3月1日〜2014年2月28日
観察期間:42ヶ月(四分位範囲33−49ヶ月)
無作為化:electronic web-based systemを用い、ブロック無作為化を行う。
盲検化:オープンラベル。アウトカム評価者は盲検化されている。
必要症例数:920例(2年のフォローアップで標準的PCI群で13%のイベント発生、ステント留置延期により25%のリスク減少、power80%、αlevel0.05として算出)
症例数:1215例(標準的PCI群612例、ステント留置延期群603例)
追跡率:1207/1215例(99.3%)
解析:ITT解析
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ステント留置延期群では、中央値3日で2回目のCAGが行われ、うち85例(14%)はステント留置されなかった。131例(22%)で病変や冠血流が不安定であったため。初回のPCIでステントを留置した(クロスオーバー)。症状の再発もしくはST上昇のため、11例(2%)で予定されていた2回目のCAG前にステントを留置した。

標準的PCI群では、9例(1%)が手技的な問題あるいは末梢の塞栓症のリスクのためステントは留置されていない(クロスオーバー)。4例で入院中の再血行再建が必要になった(うち1例はステント血栓症)。

result
18ヶ月後のLVEFは、標準的PCI群で57%、ステント留置延期群で60%(P=0.042)と統計学的有意差があるが、臨床的に大きな違いはなさそう。

◇感想/批判的吟味
今まで報告されている小規模の報告では、STEMIのprimary PCIでステント留置を延期することで、造影所見、エコー所見、臨床的アウトカムを改善させていたが、この大規模試験では臨床的なアウトカムを改善させなかった。

primaryPCIの際にステント留置をdeferできたなら、あえて数日後にステントを入れなくてもいいんじゃないかと思ってしまうが。この試験ではIVUSを使用は必須とされていないようなので、POBA後にminimum lumen areaはどれくらいあればよいか、解離はどの程度なら許容できるかなどはわからない。

この試験と同じようにdeferd stent implantationの有用性を検証する試験が3つほど走っているらしい。MINI試験、INNOVATION試験では梗塞サイズをエンドポイントに、PRIMACY試験では臨床的なアウトカムを設定している。ステントを入れないことでステントを留置した場合と変わらないアウトカムが得られるのであれば、ステントを入れないにこしたことはない。