糖尿病

SUSTAIN−6試験 セマグルチドの心血管イベント抑制効果

Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes
New Engl J Med. 2016 Sep 15. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
GLP−1アナログであるセマグルチドの心血管への効果は不明である。

方法
2型糖尿病患者3297例を、セマグルチド(0.5または1mg)を週に1回投与する群とプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞である。主要評価項目において、セマグルチドはプラセボに対し非劣性であると仮説を立てた。非劣性マージンは95%信頼区間の上限が1.8とした。

結果
ベースラインにおいて、2735例(83.0%)が心血管疾患(CAD)または慢性腎臓病(CKD)、もしくはその両方を有していた。主要評価項目は、セマグルチド群では108/1648例(6.6%)、プラセボ群では146/1649例(8.9%)であった(HR:0.74、95%CI:0.58−0.95)。非致死的心筋梗塞は、セマグルチド群では2.9%に、プラセボ群では3.9%に起こった(HR:0.74、95%CI:0.51−1.08)。非致死的脳梗塞は、それぞれ1.6%と2.7%であった(HR:0.61、95%CI:0.38−0.99)。心血管死は両群に差はなかった。新規の腎障害、または腎機能の悪化はセマグルチド群で有意に少なかったが、網膜症合併症(硝子体出血、失明、硝子体の治療、光凝固療法)はセマグルチド群で有意に多かった(HR:1.76、95%CI:1.11−2.78)。重大な有害事象はセマグルチド群で少なかったが、胃腸症状のため治療を中止した症例は多かった。

結論
心血管リスクの高い2型糖尿病では、セマグルチド群がプラセボ群に比べ、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞の発生が有意に低く、セマグルチドの非劣性が証明された。

◯この論文のPICOはなにか
P:HbA1c7.0%以上の2型糖尿病
I:週1回、セマグルチド(0.5mgまたは1mg)の皮下注(セマグルチド群)
C:プラセボの皮下注(プラセボ群)
O:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞

inclusion criteria:経口血糖降下薬1剤以下の患者、持効型インスリンもしくはミックスを使用している患者、50歳以上、心血管疾患の既往(冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患)、慢性心不全(NYHAⅡまたはⅢ)、CKD(stage3以上)または60歳以上で心血管リスクを1つ以上有する患者

exclusion criteria:過去30日以内のDPP4阻害薬の使用、90日以内のGLP−1受容体作動薬、もしくはインスリン(持効型、ミックス以外)の使用、冠動脈・内頚動脈・末梢血管の血行再建が予定されている患者、長期の血液透析

◯baselineは同等か
characteristics
糖尿病の罹患期間のみ、有意にセマグルチド群で多い。
経口血糖降下薬・ACE阻害薬/ARB、脂質降下薬、抗血小板薬に群間差はないらしい。

◯結果
地域:20カ国、230施設
登録期間:2013年2月〜2013年12月
観察期間:2.1年
無作為化:罹患している心血管疾患、インスリンの使用の有無、eGFRで層別化し、無作為化を行う(無作為化の方法については記載がない)
盲検化:患者、治療介入者、アウトカム評価者、解析者、すべてが盲検化されている
必要症例数:3260例(両群ともに主要評価項目の発生は1.98%/年、ドロップアウト10%未満、平均観察期間2.1年、非劣性マージン1.80、αlevel0.05、power90%として算出)
症例数:3297例(セマグルチド群1648例、プラセボ群1649例)
追跡率:3232例(98.0%)
解析:ITT解析
スポンサー:ノボノルディスクから資金提供。データ収集や解析にも関与している。

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◯感想/批判的吟味
セマグルチドにより複合エンドポイント(心血管死、、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞)が有意に減少している。しかし、その中で有意差があるのは非致死的脳梗塞のみで、非致死的心筋梗塞は少ない傾向にあるが有意差はなく、心血管死については両群でほぼ同じ。有意差がついている非致死的脳梗塞に限って言えば、NNTは2.1年間で91になる。

カプランマイヤーをみると、最初から徐々に差がついていっている。HbA1c8.5から7.5に、体重は92kgから4−5kg減って、収縮期血圧は132mmHgから2−3mmHg低くなってはいるが、それらによる動脈硬化の進展抑制としては効果のタイミングが早すぎる。セマグルチドには、動脈硬化の進展抑制によらない作用があるのか。

盲検化試験といってもHbA1cと体重をみれば、どちらの群に割り付けられているか察しがつきそう。ただ、エンドポイントはソフトではないので、そこにバイアスは入らないだろう。ただ、本文には非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞の定義は書かれておらず、Supplementally appendix の中にも見当たらなかった。もし、不安定狭心症やTIAなども含まれていたとすると、そこにバイアスがかかる余地が十分ある。

硝子体出血とか失明とか網膜への影響があることも、気に留めておく必要がある。