虚血性心疾患

DESと病理所見

Histopathology of vascular response to drug-eluting stents: an insight from human autopsy into daily practice.
Cardiovasc Interv Ther. 2015 Jan;30(1):1-11

《要約》
薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)は新生内膜の増殖を抑制することを主要な目的として開発された。DESはベアメタルステント(bare metal stent:BMS)と比べ再狭窄を著しく減少させたが、完全に克服できていない。遅発性ステント血栓症(late stent thrombosis:LST)は血管治癒の遅延やDESに対する異常な血管反応で、大きな安全性への懸念として浮かび上がってきた。より新しいDESやその他の新規のデバイスの成績が期待されるが、それらの問題は完全には解決できていない。このレビューでは、組織病理学の視点から、DESの現状と、今のDESと新規デパイスの強みとリミテーションについて議論する。

BMS
24−48時間以内に血小板とフィブリンの凝集が起こり、それは11日間に渡り見られ、ステント血栓症を避けるため抗血小板療法を必要とする。30日間を超えて血小板の凝集が見られることは稀である。一方、内皮損傷による組織因子遊離や、単球・マクロファージの活性化によりフィブリンは増殖し、活性化した血小板のブリッジを形成する。フィブリン血栓はステント留置後11日間ではすべての症例でみられ、30日以降でみられることは稀である。FDPが平滑筋と新生内膜の増殖に重要な役割を果たしていると推測されている。好中球を含む急性炎症細胞の浸潤がステント留置後3日以内に認められる。30日後以降でみられることは稀である。リンパ球やマクロファージなどの慢性炎症細胞があらゆる時期に見られるが、その程度は血管障害の程度とプラークの形態に依存する。ステントストラットによる中膜やプラークの障害、あるいは壊死性コアの崩壊がより大きな炎症反応を惹起する。これらの炎症細胞がサイトカインの増加を誘発し、より強く新生内膜増殖を引き起こす。

新生内膜内の平滑筋と細胞外マトリックス
新生内膜内の平滑筋増殖は11日後以降にみられ、30日以降ではすべての症例で確認される。中膜平滑筋細胞が主な起源であると考えられている。血管治癒のより遅い相では、内腔の下層は平滑筋細胞と細胞外マトリックスに富むが、次第にマトリックスは少なくなる。ストラット周囲ではプロテオグリカンが増加する。

ステント留置された冠動脈の内皮化
バルーン拡張やステント留置により内皮の剥離が起こる。BMSでは、新生内膜表面の被覆率は3−4ヶ月の時点で80−100%になる。その内皮の由来には議論があり、ステントの近位部・遠位部より内皮細胞が進展してくることや、循環するCD34陽性前駆細胞などが主張されている。新たな内皮細胞同士は密ではなく、脂質の浸透を防げない。その機能の改善はプラークの性質による。

DESでみられる血管治癒の遅延
DESの合併症として知られる遅発性ステント血栓症(LST)はBMSでは稀である。組織学的な比較(留置後約220日)では、新生内膜面積(2.8±1.1 vs 4.9±3.0mm2、P<0.0003)、フィブリンスコア(2.3±1.1 vs 0.9±0.8、P<0.0001)、内皮化(55.8±26.5 vs89.8±20.9%、P=0.0001)で、BMSと比較しDESで血管治癒の遅延がみられた。DESにおける比較では、血栓性病変に対するDESの留置は、非血栓性病変に対するDESの留置と比べ、内皮化の割合がより少なかった(40.5±29.8 vs 80.0±25.2%、P<0.0001)。カバーされていないステントストラットの割合(RUTSS)は非血栓性病変より血栓性病変で多かった(0.50±0.23 vs 0.19±0.25、P<0.0001)。多変量解析では、内皮化がLSTの予測因子であり、形態学的には内皮化はRUTSSと最もよい関連を示す。RUTSSが30%以上であれば、完全にカバーされたステントと比較し、血栓症のオッズ比は9.0になる。

新生内膜の増殖と治癒へのプーラク形態の影響
破裂したプラークや壊死性コアへのステントのめり込みは、BMSでの再狭窄の誘引となり、またDESでも血管治癒が遅延することが示されている。AMIの責任病変部位は非責任病変部位と比較し、血管治癒が遅れる(%strut with fibrin 63±28 vs 52±27%, P=0.04; %uncovered strut 49% vs 19%, P=0.02; neointimal thickness 0.04 vs 0.07mm, P=0.008)。

ステント内での新規のアテローム性動脈硬化:neoatherosclerosis
冠動脈の動脈硬化は、脂質の蓄積と泡沫細胞の侵入により10年単位で進行するが、neoatherosclerosisはステント内の新生内膜におけるアテローム性動脈硬化であり、数ヶ月から数年での進行する。neoatherosclerosisは、ステントストラット周囲にしばしばみられる脂質を含む泡沫細胞の蓄積である。泡沫細胞は最も早くて、パクリタキセル溶出性ステント(PES)では70日後、シロリムス溶出性ステント(SES)では120日後、BMSでは900日後に観察される。neoatherosclerosisは、BMSよりDESで多く見られる(31% vs 16%, P<0.001)。neoatheroslersisには、不完全な再内皮化、内皮機能の不完全な改善など様々な要因が影響する。DESでは細胞間結合が粗であり、脂質や単球/マクロファージなどの浸透の障壁として効果的に働かない。その他、細胞外マトリックスプロテオグリカンがBMSよりDESで多く、それがneoatherosclerosisに大きな役割を担っている可能性がある。また、DESの薬剤とポリマーに対する反応が、再内皮化の減少や細胞外マトリックスの相違と関連しているかもしれない。ただ、なぜBMSとDESの血管治癒にこのような差異が生じるかは不明である。 SESとPESの相違
ステント血栓症を起こした症例の剖検では、SESとPESに差異は見出せず、ステントの性質というより手技に関連したステント血栓症であることが示唆された。しかし、遠隔期の血管反応は、SESとPESで明らかな違いがあった。PESでフィブリンの蓄積が多いが、炎症スコアはSESで高かった。また、SESでは好酸球と巨細胞の浸潤を認めたが、PESでは好酸球浸潤はみられなかった。内皮化の遅延が、SES/PESの遅発性ステント血栓症の共通の特徴であるが、ステント血栓症の発生頻度に差異はない。SESの好中球浸潤はシロリムスに対する過敏性でであり、PESのフィブリンの堆積と中膜壊死は細胞毒性である。

第2世代DES
第2世代DESであるゾタロリムス溶出性ステント(ZES)、エベロリムス溶出性ステント(EES)はストラットが薄くなり、薬剤搭載量も少なく薬剤溶出も早くなった。ポリマーは生体適合性が高く、ポリマーの厚みも減少した。テント留置後1ヶ月から2年までのLSTは第2世代で低下した(5% vs 20%, P=0.034)。しかし、第1世代より低減はしたものの第2世代DESでも炎症反応の持続が認められ、CoCr−EESと第1世代DESでneoatherosclerosisで似通っていると報告がある。