弁膜症

PARTNER試験(TAVR)の長期成績

5-year outcomes of transcatheter aortic valve replacement or surgical aortic valve replacement for high surgical risk patients with aortic stenosis (PARTNER 1): a randomised controlled trial.
Lancet. 2015;385:2477-84

《要約》
背景
PARTNER試験の早期の成績によって、経カテーテル的大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve replacement:TAVR)は、外科的治療困難症例の高度大動脈弁狭窄症(severeAS)に対する治療として受け入れられた。しかし、こられの患者に対する長期成績は知られていない。

方法
この試験は、カナダ、ドイツ、アメリカの21施設で行われた。外科的治療困難な有症候性のsevereASの症例をTAVRと標準的治療(BAVを含む)の2群に1:1に無作為化した。無作為化は中央割り付け方式で、患者と治療介入者は治療の割り付けについて盲検化されていない。主要評価項目はITT解析での1年間の全死亡で、我々は5年間の成績を公表する。

結果
我々は3015例を審査し、うち358例を登録した(平均年齢83歳、STSスコア11.7%、女性54%)。179例がTAVR群に、179例が標準治療群に割り付けられた。標準治療群のうち、20例にTAVRが施行され、10例が試験を中止している。TAVR群では5例の脱落があった。5年間での全死亡はTAVR群71.8%、標準治療群93.6%であった(Hazard ratio:0.50, 95%CI0.39-0.65)。生存者49例中42例(86%)がNYHAclassⅠ/Ⅱであった一方で、標準治療群では5例中3例(6%0)であった。心エコーではTAVRの耐久性が示された(大動脈弁口面積1.52cm2、平均圧格差10.6mmHg、いずれも5年の時点)。

結論
外科的治療困難なsevereASにおいて、TAVRが標準治療に比べ有益であり、そのような患者に対して生命予後や症状を改善するため、TAVRを考慮しなければならない。

PARTNER試験の1年の時点での成績については、外科的治療困難な高度大動脈弁狭窄症に対するTAVI(PARTNER試験)で示したが、試験の概要について以下に一部転載しておく。

◯この論文のPICOはなにか
P:外科的治療困難な有症候性の高度大動脈弁狭窄症(severeAS)
I:TAVR
C:標準治療(BAVを含む)
O:全死亡

severeASの定義:弁口面積0.8cm2以下、大動脈弁圧較差40mmHg以上、大動脈弁口部の血流速度4.0m/分

Exclusion Criteria:二尖弁、非石灰化、急性心筋梗塞、血行再建を要する重大な冠動脈疾患、LVDF<20%、大動脈弁輪18mm以下及び25mm以上、severeMR/AR、僧帽弁置換術後、6ヶ月以内のTIA及び脳梗塞、腎不全

◯ランダム割付されているか
コンピュータによる割付。

◯baselineは同等か
年齢は83歳ぐらいと高齢で、8割が男性。STSscoreは11とこれも高め。NYHAⅢ-Ⅳが9割、大動脈弁口面積0.6cm2、平均圧較差44mmHgと重症の方で、LVEF50%とそこそこ保たれている。2割でmoderate to severe MRを合併している。そのほか、心筋梗塞の既往、CABG・PCI・BAV、脳血管障害、末梢血管障害、COPD、心房細動など同等であるが、大動脈の広範囲な石灰化や心房細動は標準治療群で有意に多い。

◯症例数は十分か
1年後の全死亡が標準治療群では37.5%、TAVI群では25%と仮定し、power0.85、αlevel0.05で必要症例数は350例と算出されており、358例(TAVI群179例、標準治療群179例)ランダマイズされている。

◯盲検化されているか
試験の性質上、患者、治療介入者は盲検化できない。アウトカム評価者は盲検化されている。

◯すべての患者の転帰がoutcomeに反映されているか
ITT解析されている(ランダマイズされた358例すべて)。

◯結果
TAVR群 vs 標準治療群、HR(95%CI)
全死亡:71.8% vs 93.6%, 0.50(0.39-0.65)
脳梗塞:16.0% vs 18.2%, 1.39(0.62-3.11)

◯批判的吟味/感想
・企業(Edwards Lifesciences)が資金提供している。
・企業はデータ解析には介入していない。
・脳梗塞の発症は16%と多いが、標準治療と有意差はなかった。
・外科的治療困難な有症候性のsevereASに対してはTAVRは強く推奨され得る。