大動脈解離の診断は難しい。胸痛を訴える患者など、大動脈解離が鑑別にあがる状況で、全員にCTを撮るわけにはいかないし、CTのハードルが高いと見逃してしまう。
肺血栓塞栓症では、D-dimerが陰性であれば除外できるが、大動脈解離の場合はそうはいないない。感度が高い検査方法ではあるが、除外する目的では使えない(1)。
ADDリスクスコアというものもあるが、これもそれだけでは大動脈解離を否定することには使えず、このスコアをIRAD databeseに当てはめると、大動脈解離2538例のうち108例 (4.3%) がlow risk (ADDリスクスコア=0) だった。
ADDリスクスコア
次の3つのカテゴリで、カテゴリ内の項目をひとつでも該当すれば1点とし、0−3点で評価する。
①マルファン症候群、大動脈疾患の家族歴、既知の大動脈弁疾患、既知の胸部大動脈瘤、大動脈の治療 (手術)
②突然、激痛、引き裂くような痛み
③血流障害 (脈拍の欠損、収縮期血圧の左右差、局所的な神経学的異常)、拡張期逆流性雑音、低血圧・ショック
ただし、ADDリスクスコアとD-dimerの組み合わせは、大動脈解離の除外に有用かもしれない。
Diagnostic Accuracy of the Aortic Dissection Detection Risk Score Plus D-Dimer for Acute Aortic Syndromes: The ADvISED Prospective Multicenter Study.
Circulation. 2018;137(3):250-258
2014年〜2016年に登録された、4ヶ国、6施設の前向き観察研究。
発症14日以内の胸痛、腹痛、背部痛、失神、灌流障害の症状・徴候で救急外来を受診した患者1850例が対象。ADDリスクスコアとD-dimerについて評価し、急性大動脈症候群 (AAS) があやしければCTA・TEE・MRAを行う。
これらの検査をしなかった患者、手術あるいは剖検によるASSの診断がついていない患者、ASSを除外された患者では、14日間のフォローアップを行う。本人または家族に電話をするか、再診外来にきてもらい、質問表に答えてもらう。
ASSの定義は、Stanford AとBの大動脈解離、大動脈壁在血腫 (IMH)、penetrating aortic ulcer (PAU)、大動脈破裂。確定診断は、CTA・TEE・MRA・手術・剖検により、ASSの所見が確認できること。
primary endpointは、ASSを除外する上での、ADDリスクスコア (0または≦1) とD-dimer陰性を組み合わせのfailure rate。
【結果】
1850例のうち、835例は画像検査が行われ、234例がAASであった。画像検査が行われなかった1015例は14日のフォローアップが行われ (lost follow up 2例)、うち30例で画像検査が行われ、AASは7例だった。
ADDリスクスコア=0 + D-dimer陰性
感度:99.6% (97.7%-100%)
特異度:18.2% (16.4%-20.2%)
陽性的中率:15.4% (13.7%-17.3%)
陰性的中率:99.7% (98.1%-100%)
ADDリスクスコア≦1 + D-dimer陰性
感度:98.8% (96.4%-99.7%)
特異度:57.3% (54.9%-59.7%)
陽性的中率:25.8% (23%-28.7%)
陰性的中率:99.7% (99.1%-99.9%)
【まとめと感想】
ADDリスクスコア≦1 + D-dimer陰性であれば、99.7%で急性大動脈症候群を除外できる。もちろん、対象となる集団が異なればこの数字は変わってくるわけだけど、否定できる根拠があると助かる。
(1) Ann Emerg Med 2015;65:32-42