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潜在性甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモン補充療法に症状改善効果なし

Thyroid Hormone Therapy for Older Adults with Subclinical Hypothyroidism.
N Engl J Med. 2017 Apr 3. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
潜在性甲状腺機能低下症に対し、レボチロキシンを使用するかは議論が分かれる。我々は、高齢者の潜在性甲状腺機能低下症において、レボチロキシンの臨床的効果があるか調べた。

方法
二重盲検、無作為化、プラセボ対照試験に、潜在性甲状腺機能低下症(fT4が正常範囲で、TSH:4.60−19.99mIU/L)を有する65歳以上の高齢者737例を組み入れた。レボチロキシン群に368例、プラセボ群に369例を割り付けた。レボチロキシン開始量は50μg/日とし、体重50kg未満や心血管疾患を有する場合は25μgから開始し、TSH値に応じて容量調整する。primary endpointは、Hypothyroid Symptoms scoreとTiredness score on a thyroid-related quality-of-life questionnaireの1年後の変化である(いずれも症状に基づくスコア評価)。

結果
平均年齢74.4歳、396例(53.7%)が女性であった。baselineの平均TSH値:6.40±2.01mIU/Lで、1年後にはプラセボ群で5.48mIU/L、レボチロキシン群で3.63mIU/Lであった(P<0.001)。レボチロキシン投与量の中央値は50μgであった。Hypothyroid Symptoms scoreは、プラセボ群:0.2±15.3、レボチロキシン群:0.2±14.4、Tiredness scoreは、プラセボ群:3.2±17.7、レボチロキシン群3.8±18.4と、いずれも有意差はなかった。secondary outcomeでもレボチロキシンの効果は認めなかった。重大な有害事象にも有意差はなかった。

結論
高齢者の潜在性甲状腺機能低下症において、レボチロキシンはベネフィットがなかった。

◇この論文のPICOはなにか
P:65歳以上の潜在性甲状腺機能低下症
I:レボチロキシンの内服
C:プラセボの内服
O:Hypothyroid Symptoms scoreとTiredness scoreの1年後の変化

inclusion criteria:過去3ヶ月〜3年の間で2回以上TSH:4.60−19.99mIU/Lであること、fT4は正常範囲
exclusion criteria:レボチロキシン・抗甲状腺薬・アミオダロン・リチウムの内服、12ヶ月以内の甲状腺手術やアイソトープ治療

◇baselineは同等か
同等。

(本文から引用)

◇試験の概要
地域:イギリス
登録期間:不明
観察期間:12ヶ月
無作為化:国、性別、開始容量で層別化。ブロックランダム化。
盲検化:二重盲検
必要症例数:750例(プラセボとの差がHypothyroid Symptoms score:3ポイント、Tiredness score:4.1ポイント、power80%、αlevel0.05)、540例(プラセボとの差がHypothyroid Symptoms score:3.5ポイント、Tiredness score:4.9ポイント、power80%、αlevel0.05)
症例数:637例(レボチロキシン群368例、プラセボ群369例)
追跡率:レボチロキシン群:86.4%、プラセボ群:86.7%
解析:mITT解析
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◇結果

(本文から引用)

(本文から引用)

心血管イベントにも差がない。

◇批判的吟味
潜在性甲状腺機能低下症に対してレボチロキシンを投与しても、症状や握力、認知機能などに変化はない。なので、特に心血管疾患の既往のない方では、投薬なしに経過観察してよいだろう。

ただ、心血管疾患の既往がある方では慎重に考えた方がいいかもしれない。甲状腺機能低下症は、拡張期血圧を上昇させ、脂質代謝の面ではLDLコレステロールや中性脂肪を上昇させる。なので、1年間では差がなかったが長期的には心血管系へのリスクになりえるかもしれない。

個人的には、血圧や脂質がコントロールされていれば、潜在性甲状腺機能低下症(TSHが高くなっているというだけで)に対しあえて投薬をしなくてもよいと思う。

◇感想
高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に対するレボチロキシン補充療法は、症状・認知機能・握力などに影響をおよぼさない。心血管イベントに関しては、より長期の観察が望まれる。