虚血性心疾患

ReACT試験 フォローアップ冠動脈造影はルーチンで行う必要がない

The ReACT Trial: Randomized Evaluation of Routine Follow-up Coronary Angiography After Percutaneous Coronary Intervention Trial.
JACC Cardiovasc Interv. 2017 Jan 23;10(2):109-117

《要約》
目的
この試験の目的は、日本で一般的である、カテーテル治療(PCI)後にルーチンで行われるフォローアップの冠動脈造影(FUCAG)の長期的な臨床上のインパクトを調べることである。

背景
PCI後にルーチンで行われるFUCAGの、長期的な臨床上のインパクトは十分調べられていない。

方法
前向き、他施設、オープンラベル、無作為化試験である。PCIに成功した患者を、冠動脈造影をルーチンで行う群(AF群)と、行わない群(CF群)の2群に無作為に割り付け、AF群ではPCIから8−12ヶ月後にFUCAGを行った。主要評価項目は、最短で1.5年の観察期間での、死亡、心筋梗塞、脳梗塞、急性冠症候群(ACS)による緊急血行再建、心不全による入院の複合エンドポイントである。

結果
2010年3月から2014年7月の間で、22施設からAF群349例、CF群351例の計700例を登録した。中央値4.6年(四分位範囲3.1−5.2年)の観察期間で、主要評価項目の5年間の累積発生率はAF群で22.4%、CF群で24.7%であった(HR:0.94、95%CI:0.67-1.31)。最初の1年に行われる血行再建は、AF群で有意に多かったが(12.8%vs3.8%、log-rank p<0.001)、5年間の観察期間ではその差は薄れた(19.6%vs18.1%, log-rank p=0.92)。

結論
PCI後にルーチンで行われるFUCAGは臨床的ベネフィットがなく、早期の血行再建はFUCAGを行なった患者群で有意に増加した。

◇この論文のPICOはなにか
P:PCIに成功した冠動脈疾患患者
I:PCIから8−12ヶ月後にルーチンでの冠動脈造影を行う(AF群)
C:ルーチンでの冠動脈造影を行わない(CF群)
O:死亡、心筋梗塞、脳梗塞、急性冠症候群(ACS)による緊急血行再建、心不全による入院

inclusion criteria:staged PCIが予定されていない患者
exclusion criteria:なし

◇baselineは同等か

同等。たぶんAPがメインで、病変とステント数は1コか2コ。CTOは少ない。2stentで治療されていた患者の割合は不明。スタチンやβblockerの内服率は高くない。

◇試験の概要
地域:日本
登録期間:2010年3月〜2014年7月
観察期間:中央値4.6年(四分位範囲3.1−5.2年)
無作為化:施設、BMS使用で層別化した上で、退院前に登録し無作為化する。
盲検化:オープンラベル
必要症例数:当初は、3年間のCF群でのイベント発生率25%、介入により15%の相対的リスク減少、power80%で、必要症例数3300例と算出されていたが、登録が進まないために2014年に700例に修正されている(5年間の観察期間で、CF群のイベント発生率が47.7%、介入により25%の相対的リスク減少、クロスオーバーやロストフォローアップが25%と仮定)。
症例数:AF群349例、CF群351例の計700例
追跡率:不明
クロスオーバー:AF群14.6%、CF群12.0%
解析:ITT解析
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◇結果

TLRや血行再建はAF群で増えているが、その結果ACSが減っているかというと、そうではなさそう。

◇批判的吟味
・PCIは、病変としてはシンプルな患者がメインっぽい。
・糖尿病の患者が半分近くいて、高血圧・脂質異常・冠動脈疾患の既往など、リスクは高め。
・症例が集まらず、途中でサンプルサイズ変更しているが、変更後のサンプルサイズには達している。
・観察期間は5年なので、設定されたアウトカムを評価するには十分な期間だと思う。
・APに対するPCIに心筋梗塞予防効果や生命予後改善効果がないことを考えると、ルーチンのフォローアップCAGに意味があるとは考えにくい。パワー不足の可能性はあるが、結果については異論がない。
・AF群で早期の血行再建が多いが、その後CF群も増えている。血行再建をいつやるかというタイミングの問題かもしれない。ただ、フォローアップCAGをルーチンでやった方が、医療費はかさむ。

◇感想
PCI後のフォローアップCAGは、臨床的なアウトカムは改善しないという結果。費用対効果を考えれば、多くの患者でルーチンでのフォローアップCAGは不要で、症状の再燃や客観的な虚血が証明された場合に限った方がいいだろう。

この試験に組み入れらた患者は、スタチンはそこそこ処方されているが、βblockerの処方率は低い。冠動脈疾患者に対する実臨床を反映していると思うが、自分が患者だったら、症状の有無に関わらず、とりあえずスタチンとβblockerは最大耐用量まで増やしてもらって、その後PCIをどうするか考えるなぁ。