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VADT試験 長期フォローアップデータ

Follow-up of glycemic control and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes.
N Engl J Med. 2015 Jun 4;372(23):2197-206

《要約》
背景
VADT試験は、退役軍人1791例を対象とし、厳格な血糖コントロールは標準療法と比較し心血管イベントを減少させなかった(観察期間中央値:5.6年)。そのフォローアップデータを報告する。

方法
データベースを用いて、手術、入院、死亡を確認した(フォローアップ率92.4%)。多くの患者は、毎年の調査やカルテの調査など、追加のデータ収集に同意した(77.7%)。主要評価項目は重大な心血管イベント(心臓発作。脳梗塞、新規または増悪したうっ血性心不全、虚血性壊死による四肢切断、心血管死)である。副次評価項目は心血管死亡率と全死亡率である。

結果
試験期間中、強化療法群と標準療法群のHbA1cの差は1.5%(6.9% vs 8.9%)であったが、試験終了後から3年間で0.2−0.3%減少した。9.8年のフォローアップ(中央値)で、強化療法群は従来療法群と比べ、主要評価項目が有意に低く(HR:0.83、95%CI:0.70−0.99)、絶対リスク減少は0.86%/年であった。しかし、心血管死は減らなかった(HR:0.88、95%CI:0.64−1.20)。全死亡も減少しなかった(HR:1.05、95%CI:0.89−1.25、フォローアップ期間の中央値:11.8年)。

結論
10年近いフォローアップで、強化療法群は標準療法群に比べ重大な心血管イベントが0.86%/年低かったが、死亡率には差がなかった。

◯この論文のPICOはなにか
P:2型糖尿病を有する退役軍人
I:より厳格な血糖コントロール(強化療法群)
C:標準的な血糖コントロール(標準療法群)
O:心血管イベント(心臓発作。脳梗塞、新規または増悪したうっ血性心不全、虚血性壊死による四肢切断、心血管死)

exclusion criteria:HbA1c<7.5%、6ヶ月以内の心血管イベント、高度のうっ血性心不全、重度の狭心症、7年以内の生命予後、BMI>40、Cr>1.6mg/dl、ALTが正常上限以上

治療プロトコール
BMI≧27ならビグアナイド+ロシグリタゾンで治療開始
BMI≦27ならグリメピリド+ロシグリタゾンで治療開始
強化療法群は最大量で、標準療法群は最大量の半量から治療開始
上記の治療で、強化療法群では6%未満、標準療法群では9%未満にならなければインスリンを導入する
治療目標は、強化療法群でHbA1cを1.5%低下させること

◯baselineは同等か
同等。以下、ざっくりと。
年齢60歳、ほとんど男性、平均糖尿病罹患年数11.5年、60%強が高血圧合併、平均HbA1c:9.4%、血圧の平均値132/76mmHg、LDLコレステロール108mg/dl、HDLコレステロール36mg/dl

◯結果
地域:米国
登録期間:2000年12月1日~2003年5月30日
観察期間:9.8年(中央値)、もとの試験は5.6年
無作為化:置換ブロック法、施設・微小血管イベント・インスリンの有無で層別化
盲検化:オープンラベル
必要症例数:1700例(標準治療群の心血管イベント40.0%、強化療法群により心血管イベント21%減少、power86%、αlevel0.05、ドロップアウト5%として算出)
症例数:1791例(強化療法群892例、標準療法群899例)
追跡率:強化療法群703例(78.8%)、標準療法群688例(76.5%)
解析:ITT解析、ハザード比の推定にはCox比例ハザードモデルを用いた
スポンサー:企業からの資金提供はあるが、解析への関与はない。

HbA1cの差は、試験終了6ヶ月後に1.0%、1年後に0.5%(強化療法群:7.8%、標準療法群8.3%)、3年後に0.2−0.3%になった。

強化療法群 vs 標準治療群
主要評価項目:44.1% vs 52.7%(HR:0.83, 95%CI:0.70-0.99)
心血管死:10.0% vs 11.3%(HR:0.88, 95%CI:0.64-1.20)
全死亡:32.0% vs 30.3%(HR1.01, 95%CI:0.89-1.25)

result1
(Supplementary appendixより引用)

◯感想/批判的吟味
・退役軍人のデータで男性が97%と、特異な集団。
・チアゾリジンが多く使用されており、アウトカムを悪化させた可能性。
・VADT試験の以前の報告では、インスリンの使用や心血管イベントの既往によらず、強化療法の効果はなかった。
・追跡率が良いとは言えず、無作為化が維持できているとは言えない。

複合エンドポイントの中身をみてみると、どれも有意差がついておらず、なんとも煮え切らない結果。これでlegacy effectが確認されたとは言っていいのかわからない。低血糖が糖尿病の予後を悪くすることは確実であり、低血糖を起こさない程度に、十分な血糖コントロールを行った方がよいということだろう。